「大人への登竜門」(岩瀬 俊介)
「スミスしかない。」
ファッション雑誌で見つけた濃紺色で縦長フォルムのポール・スミスのバッグ。
冴えない学生生活を送っていた高校2 年の僕は紙面から放たれる大人の香りに魅了された。
一つ気がかりなことがあった。
萱町のあのお店はお洒落な大人達だけが集うと聞いたこと。
財布を握りしめ、一張羅でめかしこんだ僕は決死の覚悟で1 人、萱町に向かった。
あれから20 年。
「当時はプリクラが流行ってて。新しい機械で撮るたびにお店に持ってきてくれる子たちがいてね。」
ん?プリクラ?確かに流行っていたけれど。
「そこのソファーで学校帰りの高校生に勉強を教えてあげてたなぁ。」
え?高校生に勉強を?お洒落な大人達の社交場ではなかったの?
当時を振り返り、店主は穏やかに話してくれた。
ポール・スミス豊橋店。
20 年前のあの日も今も変わらない。
訪れる人皆をやさしく包み込む、素敵な「大人への登竜門」だ。
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