本文へ移動
メニューへ移動
チャレンジ3 設計段階の取り組み
チャレンジ3 設計段階の取り組み

 新しい保育園の設計方針として、学生コンペで選ばれた建築計画案「風土の中のさんぽミチ」を実現するため、建築計画提案者の中山朋紀さん、原希望さん、永井里奈さん(名古屋工業大学大学院)が、設計者となる建築事務所のもとで取り組んだ設計の成果を報告します。

〇学生コンペで選ばれた建築計画案(チャレンジ1・2)

sanpomichi

~風土の中のさんぽミチ~

散歩をするように毎日の発見から育つことができる保育園。

・”みんなのニワ(中庭)”を囲うように、軒の出が深い半屋外の”さんぽミチ(縁側)”が一周し、保育室などの屋内空間と屋外空間とがゆるやかに連続する。

・年齢に応じたそれぞれの保育室の間には、周辺環境の変化を感じることができる”隠れニワ(小庭)”を配置する。

 

〇建築計画提案者として設計に参加した学生が設計検討のために製作した建築模型(チャレンジ3・最終成果)

heimenkeikaku

△平面計画

mokei2

△東側(公園)からの鳥瞰

mokei3

△南側(住宅地)からの鳥瞰(木造小屋組)

mokei4

△みんなのニワとさんぽミチ(2歳児室側)

 

 

学生による活動報告

 建築計画提案者の学生の皆さんが、公益社団法人愛知建築士会・学生コンペ委員会主催の学生活動報告会(令和5年10月29日開催)に招待され、とよはし公共建築学生チャレンジコンペティションでの活動と成果について発表しました。

   

 

建築計画提案者インタビュー

中山朋紀さん 名古屋工業大学大学院2年 

 普段の学校の設計課題と違い、建築物や空調、素材などに対して使う側、管理する側、設計する側、コストなど複数の要素からメリット・デメリットを挙げ、合理的に判断していくシチュエーションを体感できたことが一番新鮮でした。また、設計者が現場で得た意見を図面に修正・反映するスピード感に大変驚きました。形状が変更になったり、構造が変わったり、日々ものすごいスピードで変化する図面を理解するのに必死でした。正直、ついていけずに悔しかったです。
公共建築という点でみると、多くの関係者の同意をもって議論が進んでいくので、その合意形成をしていく過程への労力がとても大変だなと感じました。何よりも市民の方が愛着を持ち、好きになってもらうことが大事なので、長く愛される保育園になるために、多くの人が汗を流す姿に感動しました。
 このコンペの大きな特徴である実施設計に自分たちの案が採用されるということの重要性を感じ始めたのは、二次審査以降でした。二次審査までは一般的な学生のコンペのように入選を目指し、提案を詰めていました。チャレンジ2に入ったとき、安全性や効率の良い動線計画など実際に保育園を使う保育士の方の意見を受け、リアリティのある提案へ詰めていくことの難しさを痛感しました。ただ、難しかった一方で、たくさん試行錯誤し、意見を反映することで、自分たちの図面がより詳細で実現性を帯びていくのも同時に体感しました。
また、アドバイザーの手塚先生のエスキスを受け、コンペを勝ち抜くために「コンセプトを一貫すること」「伝わりやすいシンプルな図面を目指すこと」をアドバイスされました。これはクライアントである保育士の方に自分たちの案を説明するときに、いかに理解してもらうか、こだわりを伝えられるかという部分で、非常に勉強になりました。この言葉は市役所への最終プレゼンでも心の支えになりました。
自分たちの案が実際に建つという経験は非常に貴重ですし、このコンペを通して他の提案者の方たちと保育園建築をめぐり、エスキスを共にしたことはとても勉強になりました。このような機会を与えてくださったことに感謝しています。



原希望さん 名古屋工業大学大学院2年 

 コンセプトをプランの細部まで貫き通す難しさを痛感しました。私は、今回の提案で最も力を入れたことはコンセプトです。そこで日々を過ごす子どもたちのことを最優先に考え、子どもにとって保育空間がどうあるべきか、固定概念にとらわれないことを意識していました。しかし、今回の計画ではそこで過ごす子どもの声を実際に聞くことはできず、保育を行う保育士を中心にワーキングを行い、保育にとっての空間の条件を最優先されかねないことが、現場における課題であると感じました。学生という中立な立場で、さらにコンセプトの立案者として意見を発し、揺るがないコンセプトを細部まで貫き通すことを意識し参加していました。子どもを最優先に考えたコンセプトだからこそ最後まで貫き通し、保育士にも理解していただける提案だったと思います。
 これまでにない貴重な経験をさせていただきました。そして建築設計の難しさを痛感しました。最も難しかったのは細部の設計です。大学の設計課題とは異なり一つ一つの選択が責任あるものでした。私たちの提案したプランを実際に実施設計に落とし込んでいくためにどのように図面に落とし込んでいくのかを学び、考える必要がありました。そういった中でアドバイザーや設計者の方々に多くのことを教えていただき、学びになる機会が多く、私たちが大きく成長できる機会となりました。提案を受け入れていただき、このような機会をいただけたことに大変感謝いたします

 

永井里奈さん 名古屋工業大学大学院1年

 学生のうちに実際に建つ建築に関われたことは、私にとって非常に貴重な経験になりました。実施設計案に採用されてからは、コンセプトを一貫して私たちのアイデアを図面に落とし込み、スタディを進める過程を見て、実際に手を動かし、建築が作られていく様子を肌で感じることができました。アイデアコンペのような空想の建築を作っているのではなく、色々な人の想いが絡まり合って作られる公共建築に携わることができて良かったです。一方で、公共建築ということが設計の壁にもなりました。半屋外空間を含めたワンルームの保育室で保育をおこなう、という提案に対して、安全面や保育の方法などで不安の声も上がりました。公共建築という性質上、市民全員が良いと思うことができる提案にする必要があり、話し合いの過程でお互いの意見を聞きながら納得できるものを作り上げていきました。このような経験ができる機会を与えてくださり、深く感謝しております。
 それぞれの思惑があった上で、打合せで多方面から合意形成を図り、形にしていく過程は、面白くもあり、大変なことも多いことがよく分かりました。設計者として、どう動くべきかを関わっていく過程で考えていました。多方面からの要望を全て受け止めてそのまま形にするべきか、こちらの意図をしっかり伝えて理想の形へ誘導するべきなのか何度も分からなくなりました。自分の中での一つの答えは、どちらが良いというのは無くて、時と場合に応じて相手の意見を取り入れたり、建築的な面を考慮して説得したり、判断することがとても重要だということです。このように実際に色々な人と関わらないと考えられなかった物事がたくさんありました。たくさんの人々が関わってきた保育園だからこそ、地域や人に長く愛されていくものになってほしいと願っています。

 

これまでの取り組み

チャレンジ3

令和4年11月~
 ・保育士打合せ      12回
 ・調理師打合せ        5回
 ・手塚アドバイザー打合せ   3回
 ・事例研究(自主活動)
   ぎんなん幼稚園(神奈川県横須賀市)
   二川幼稚園(豊橋市)

 ・その他

   建築模型の制作、CGパースの作成補助など

1

△保育士打合せ

2

△手塚アドバイザー打合せ

3

△事例研究 ぎんなん幼稚園

 

アドバイザーの総評

学生設計の保育園が実現する。保育園はおろかこの規模の作品が学生の設計に基づいて実現できた例を私は知らない。これを実現するべく奮闘させて頂いた理由は二つある。一つは学生に夢を与えたいと思ったこと。もう一つは若手に設計の機会を提供する糸口になればという意図である。
 大学と実社会の間の隔たりは大きい。どんなに優秀な学生であろうと、入社時は全く役に立たない。描くもの全てが間違えている。私もそうであった。そのくらい実施設計に必要な知識は広範で深い。仕事ができるようになるまで5年はかかる。大学一年生から数えると学部卒で9年。修士卒だと11年かかる。その間建築を作れる情熱を維持し続けることは容易ではない。そのお役に立てればと思ったのである。
 特に難しかったのは木造をいかに木造らしく実現するかという点であった。世の中の大多数の建築はもはや真壁構造でない。配線を隠す余地はいくらでもある。構造と関係なしにいくらでも壁は立てられる。今回の学生による設計案は真壁である。かなり難易度が高い。施工前に全てを決めていなければおさまらなくなる。屋根の勾配がそのまま中の空間の形状を決める。よって構造が空間そのままになる。実は僭越ながら嫌われることを覚悟で一度差し戻しをさせて頂いた。かなりの妥協がみられたからである。実施設計側も大変であったと思う。その結果原案にかなり近い案が、原案より良い状態であがってきたと思う。
 これから実施設計を進め見積調整へと進む。更なる困難が待ち受けていると思う。私の公式な役割はここまでであるが、最後まで嫌われながらもサポートして行きたい。それは私自身の思い入れでもあるが、我々の世代が持つ次世代への義務であると考えている。

tedukashi
手塚貴晴 手塚由比

 

Copyright (C) TOYOHASHI CITY. All Rights Reserved.