平成17年
第12回
選考 |
平成17年9月9日、豊橋市役所において第12回丸山薫賞の選考が行われ、対象詩集268冊に対し、慎重厳正に議論の結果、選考委員全員の一致をもって、柏木義雄さんの詩集『客地黄落』(思潮社 刊)に決定しました。 |
選考経過 |
選考会の前に事務局から、運営委員会からの意向が伝えられ、その意向を踏まえて選考を行った。最終候補として、次の二詩集を選び、長時間にわたり検討を重ねた。いずれも秀れた内容で、甲乙つけがたい詩集であった。
久宗睦子詩集『絵の町から』は、日本語の美しさと巧みな技法を駆使し、恋のうたと遊びなどを、現実世界とは異なる、幻想的な詩的世界を表現している。年令を感じさせない瑞瑞しいイメージで、タロット占師がカードを捲るような遊びごころのある、詩集のページを繰る楽しみのある、新鮮な詩集である。
柏木義雄詩集『客地黄落』は、大病を患い人生の黄昏を迎えて、人はみなこの世の来客で、<わが命は風>の思いで、過ぎた日々の追憶と苦汁の生活を基に、日常生活の中で、<生きる意味><幸せとは何か>を問うている。<ただいま>という言葉の深い余韻や、旧約聖書、徒然草など古典を敷衍したりして現代人の苦悩が、人類愛と自然愛のこころで、豊かな感性と明晰な知的操作により巧みに形象化されており、読む者に深い感動を与えることが評価された。
以上、議論を尽くした結果、柏木義雄詩集『客地黄落』を受賞作に選んだ。 |
受賞者紹介 |
柏木義雄さんは昭和3年、神戸市生まれ。名古屋大学文学部卒業後、中部日本放送入社。同社退社後、愛知淑徳短期大学教授を経て、短大の改組に伴い愛知淑徳大学教授、平成16(2004)年退職。現在は中日文化センター講師。愛知県名古屋市に在住。
詩誌『花』同人。日本現代詩人会、中日詩人会所属。受賞歴は、昭和47(1972)年、『相聞』の中日詩賞と、平成3年度名古屋市芸術特賞。昭和42(1967)年からの中日新聞「私の詩」選者、平成8(1996)年からのエッセイ「折ふしの風景」は現在も継続中。ほかに詩集『パスカルの椅子』『来ること花のごとく』、エッセイ集『クロノスの日曜日』など。 |
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受賞の感想 |
退職のしるしにまとめた詩集が、長年にわたり御厚誼を頂いた丸山先生の名を冠した賞を受け、大変光栄に思っています。 |
受賞詩集について |
受賞詩集について選考委員を代表して菊田守さんは次のように評しました。
”受賞詩集『客地黄落』は、闘病生活を経て国内や海外への旅を通して、人はみなこの世の来客で、また<わが命は風>の思いで、生涯の黄昏を迎えて過ぎし日への追憶と、今を生きる意味を、明るい知性と重厚なイメージにより表現している。さりげない日常の挨拶<ただいま><じゃあまたね>などの言葉の美しい響きと深い意味を考えさせられた。
掲題のテーマを描いた作品「湖畔の夏」はボートに乗り、たぎり落ちる水声を聞き、人は誰もがこの世の来客と考える。家に帰り、あの水声を感じている。そして、黄落の季節を感じる、という。人生の夕暮れを迎えた心情を感じさせる。作品「鬼灯のあかり」は、吊橋、交差点、道を歩き乍ら、背理の傷、孤独の底を確かめ、獣の影をひく現代人の苦悩が描かれている。<時計の針のように><幸せの時間を指してくれる太陽>という老婦人の呟きのことばが<鬼灯のあかり>のようにぽっと明るんでいる。
作品「ある土地」は旧約聖書ヨブ記に材をとり、<私は宇宙に浮遊する塵だった>から始まり、母の嗚咽を聞いた<私>が、何十年生きて、もうどこにも行かない心の在り様を描いている。<わが命は風にして>と歌う黒人の歌声を聞き、新しい季節が近づいてくる喜びをうたっている。
さりげない会話の持つ深い意味と余韻や、草花の咲き匂う季節の喜びの中で、吹く風に<生きるいのち>の有難さを感じさせてくれる重厚な詩集である。 ” |
受賞詩集について
(柏木義雄さん) |
悠久の時間の流れのなかで、ほんのひと時、この世という客地の土にまみれるいのちの形を追い求めた。 |
表彰式 |
丸山薫の命日にあたる10月21日、ホテルアソシア豊橋で行います。 |
選考委員 |
伊藤桂一
新川和江
菊田守
秋谷豊
岡崎純 |
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