平成30年度
第25回
選考 |
平成30年9月7日(金曜日)、豊橋市役所会議室において第25回丸山薫賞の選考が行われ、議論の結果、浜田 優(はまだ・まさる)さんの詩集『哀歌とバラッド』(思潮社刊)に決定しました。 |
選考経過と授賞理由 |
音楽的演劇的空間としての詩集『哀歌とバラッド』
第一次選考の過程で五名の選者(菊田守、新藤凉子、高橋順子、八木忠栄、八木幹夫)が一人もかさなることなく七冊の詩集を推すことになったため、今回の選考は難航を極めるのではないかと危惧された。以下に候補作を挙げる。(作品の題名アイウエオ順)
- 『哀歌とバラッド』浜田優
- 『命の河』藤山増昭
- 『野笑』小池昌代
- 『未知』池井昌樹
- 『むくげの手紙』村野美優
- 『夜明けをぜんぶ知っているよ』北川朱実
- 『倭人伝断片』福田拓也
まず始めに各選考委員が詩集の推薦理由を述べ、その後各詩集の問題点や魅力的な部分を検討した。その結果『野笑』『未知』『哀歌とバラッド』が最終候補として残った。
『野笑』はこの作者ならではの詩と小説の境界をタイトロープする冒険とスリリングな表現で三名の委員が高い評価を示した。『未知』もまた生活と人間臭さがにじみ出た抒情に共感する委員もいた。『哀歌とバラッド』は不思議な構成。「ト書き」のような詩句が次の作品へのかすかな扉の役目をはたし、詩集全体が一つの断続する音楽的な作品。こうして三詩集への読み込みが進行する中で、各委員がそれまでうっすらと感じていた本音がでてきた。詩集としての新鮮さがこの三作品の中で最も強烈なのはどれかということだった。
そこで浮上したのが浜田優『哀歌とバラッド』。この詩集は取り立てて奇を衒った表現は見当たらないが、作品上には死者への思いや取り戻し得ない世界への共感が静かに語られ、読者を深い瞑想に誘う。「冬晴れの…」で始まる作品はふと、都市生活者が詩の誘惑にかられる白昼夢を静かなタッチで描く名篇であり、「牧歌」は的確な情景描写でありながら、束の間の吹奏楽を味わう思いにさせられる。さらに「鎮魂歌」の最終章にでてくる母のことを書いた詩句には思わず不意打ちの感動がこみ上げてくる。しばし選考委員全員がこの詩集の良さに気付いた瞬間だった。また、間奏のように差し挟まれる言葉遊びの語句が音楽的効果をもたらし、作品「耳の大地」などはこの詩人の音楽的なセンスの良さを感じさせた。詩集全体が静かな演劇空間とも受け止められ、深く世界を見つめる知性派の詩でもある。
以上のことを踏まえて選考委員全員でこの詩集を第二十五回丸山薫賞に推します。 (文中敬称略)
(選考委員 八木 幹夫 記)
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受賞者紹介 |
1963年生まれ。上智大学経済学部経済学科卒。書籍編集者。「歴程」同人。1990年ごろ、20代半ばから詩を書き、同人誌等で発表し始める。以来30年ほど詩作を続けている。既刊詩集に『同意にひるがえる炎』(1996年、思潮社)、『天翳』(2001年、水声社)、『ある街の観察』(2006年、思潮社)、『生きる秘密』(2012年、思潮社)。
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浜田 優さん
受賞詩集『哀歌とバラッド』
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受賞の感想 |
このたびは、私が詩を書き始めた頃から愛読してきた抒情詩人を顕彰する賞をいただき、たいへん光栄に存じます。丸山薫は、なぜくり返し海を歌ったのか。そこにはあの、広大無辺で計り知れない深さを秘めた海という、未知の存在への憧憬があったのではないでしょうか。未知の存在を解明するのが科学の努めであるならば、未知の存在を未知として心に刻み込むのが詩の努めであろうと思います。あらためて、選考に当たられた先生方と関係者の皆様に御礼申し上げます。
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贈呈式 |
平成30年10月19日(金曜日)豊橋市内のホテルで行われました。
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