平成24年
第19回
選考 |
平成24年8月31日、豊橋市役所会議室において選考委員全員の出席のもと、第19回丸山薫賞の選考が行われ、議論の結果、北畑光男さんの詩集『北の蜻蛉』(花神社 刊)に決定しました。 |
選考経過 |
平成24年度・第19回丸山薫賞選考委員会は、選考委員、伊藤桂一、菊田守、なんば・みちこ、八木幹夫、辻井喬の五名により、豊橋市役所会議室に於て行なわれた。
今回は自薦他薦を含め応募詩集二〇八冊の中から最終候補詩集に選ばれた次の四冊の詩集が対象となった。
『北の蜻蛉』(花神社) 北畑光男
『水馬』(白地社) 田村雅之
『水に囲まれたまちへの反歌』(思潮社) 永島卓
『乱反射考・死精』(書肆青樹社) 丸地守
(詩集名 五十音順)
辻井喬委員の進行により、各選考委員が四詩集について五分程度意見を述べ、四詩集の中から二詩集を選ぶことにした。
北畑詩集『北の蜻蛉』は、自分の罪深い姿がしっかりと詩に書かれている。平易な言葉で書かれた詩には、どの作品にも人間、動物、虫の生と死、更に戦争も書かれている。
「北の蜻蛉」の詩は、自分の乗ったトロッコが、廃線のレールに止まったトンボを轢き殺してしまう、トンボと自分との関わりが哀しく描かれている。また、「みずすまし」という詩は、みずすましの生態を見据えた上で「嘘をついてしまったあとは/胸のあたりに/水たまりができる」「そんなぼくの/濁った水たまりで/哀しみからやってきた/みずすましが廻っている」「廻るほどに/漣がたち/生きている悔いが/ひろがっていく」と書いている。
「北の蜻蛉」「みずすまし」は絶唱である。
他にも「道路に」「石の履歴」「牛」「蠅」など注目すべき詩である。
田村詩集『水馬』は、慎ましく控え目な詩集ではない。稍古風な日本語を用いて、自分内部や自身をさらけ出している所がある。
「転生水馬」の詩は、母の句集『冬麗』の句「患を還し転生水(みづ)馬(すまし)」の娘純子に、と添書ある句から娘(田村の妹)と母と自分の愛と死のドラマが描かれた絶唱である。また「母の死」も、淡々と書かれているだけに強く読むひとに哀しみが伝わってくる。
この他、弟を描いた「喚呼」、うすずみの自らの鬱を描いた「鬱抜け」、「ひぐらしと録音盤-北一輝の墓前にて」、禁忌の場所、屠殺場の死ににいく獣の哀れな声を書いた「息(おき)長(なが)」など注目すべき詩が多く、自分の言葉で、自分を出している詩集である。
ただ、表現に緻密なところがあったが、反面飛躍がなく平板である。また、表現が難解であるという意見もあった。
永島詩集『水に囲まれたまちへの反歌』はシュールレアリズムの手法で書かれているが表現が難解で、首尾一貫していないきらいがあり、作品がむしろ詩から離れているのが惜しまれる。
丸地詩集『乱反射考・死精』は、死と生、志と魂などを抽象的に書いている。
テーマは一貫しているが、具象でなく抽象で、観念的に書かれているので、こちらにイメージとして伝わってこない。何を書きたいのかは判っているが、詩の表現としては難がある。
五名の選考委員の発言が終了し、ここで、辻井委員が、これまでの発言の中で二詩集を集計した結果、北畑詩集五、田村詩集四、丸地詩集一、という結果であった旨発言があり、ここで、一時〈休憩〉に入った。
再開後、辻井委員から『「先程の議論でほぼ出つくしており、ここで「無記名投票」で一名を選ぶ」』発言あり。事務局でとりまとめ、開票の結果、北畑詩集三、田村詩集二、となった。
ここで再度、この二詩集について議論を重ねた結果、第十九回丸山薫賞は、詩集『北の蜻蛉』〈花神社〉北畑光男 に決定した。
今回の選考委員会は最終決定まで、北畑詩集、田村詩集がまったく異なる内容の詩集ではあるが、力量も拮抗しており、実のところどちらの詩集が受賞してもおかしくない所ではあったが、議論を尽くして決定を見た。
『北の蜻蛉』(花神社)北畑光男
この詩集は、わかりやすい言葉で、人間、動植物、虫、石などを通して、生と死、戦争などが描かれ、死者たちへの鎮魂と祈りが見事に表現されている。特に「北の蜻蛉」「みずすまし」は絶唱である。
読んだ後に、イメージが脳裏に浮かぶのはよい詩の証拠であろう。
第十九回丸山薫賞に『北の蜻蛉』北畑光男が選ばれたことを、選考委員のひとりとして、とても嬉しく思う。
(文中敬称略)
(選考委員 菊田守 記)
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受賞者紹介 |
北畑さんは、昭和21(1946)年岩手県生まれ、埼玉県児玉郡在住。
酪農学園大学卒業。岩手県及び埼玉県公立高校教員を経て現在、酪農学園大学入試アドバイザー。
24歳のころ第一詩集『死火山に立つ』の跋文を北海道の詩誌「核」主宰の河邨文一郎先生に書いていただいたのを縁に「核」同人に迎えられ終刊まで同人として活躍。「地球」(秋谷豊主宰)同人を経て現在、詩誌「歴程」(新藤凉子主宰)、「撃竹」(冨長覚梁主宰)創刊同人。詩集八冊。共著に『埼玉文芸風土記』、『「日本の詩」100年』他。 |
受賞者 北畑光男氏
豊橋中央高等学校演劇部の
皆さんによる群読
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受賞の感想 |
小生の詩集を選んでいただきありがとうございました。選考委員の諸先生に心から御礼申し上げます。また、事務局の皆様にもいろいろとお世話戴き感謝申し上げます。
老いを感じ始めた肉体と精神に負けないよう一層の精進をしていきたいと思います。いつも小生を支えてくれる家族と詩友の皆様に感謝申し上げます。 |
贈呈式 |
平成24年10月19日(金曜日)、豊橋市内のホテルで行われ、同賞委員をはじめ、日本現代詩人会理事長の山田隆昭氏ら約100名が出席。弦楽四重奏や丸山薫の詩の朗読、豊橋中央高等学校演劇部による群読などで祝福した。 |
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