第28回の丸山薫賞選考委員会は本年9月3日(金曜日)に豊橋市役所内で実施の予定でしたが、コロナ禍のため、昨年同様FAXかネットの書面選考形式(9月1日~3日)で3日間かけて行われました。
選考委員は以倉紘平、新藤凉子、高橋順子、八木幹夫、八木忠栄の5名。
事前に候補詩集として挙げられたのは以下の6冊。
山本かずこ『恰も魂あるものの如く』(ミッドナイト・プレス)
野田順子『あの夏は金色と緑と水色だった』(空とぶキリン社)
塩嵜緑『庭園考』(書肆山田)
ぱくきょんみ『ひとりで行け』(栗売社)
田中庸介『ぴんくの砂袋』(思潮社)
岩佐なを『ゆめみる手控』(思潮社)
選考は事務局の以下のマニュアルに従ってスムーズに進行、決定しました。
〔9月1日〕第一次選考
選考委員が6詩集の中から各自2詩集を選択。
得点は第一位:3点、第二位:1点(第一位と甲乙つけがたい場合:2点)
→上位3詩集を第二次選考の対象に。
〔9月2日〕第二次選考
選考委員は第一次選考で選ばれた3詩集それぞれについての書評を書いて提出。
〔9月3日〕
第二次選考の全員の書評を読んだのちに各自2詩集を推薦。その結果、山本かず
こ、ぱくきょんみ、岩佐なをの3詩集に票が割れたため、高点順に2詩集、ぱくきょ
んみ、山本かずこにしぼり、再度1詩集のみを最終の選考とし、多数決で決定。
その結果
→選考委員5人の評が3対2となり、山本かずこの「恰も魂あるものの如く」に受賞
が決定した。
今回の最終候補詩集に関してはさまざまな意見がでたが、その顕著な意見を以下に述べる。次点のぱくきょんみ「ひとりで行け」(栗売社)は1948年4月3日に韓国済州島で起こったいわゆる「よん・さん事件」をテーマに書かれたもの。作者の父、祖父母の体験を受け止め直し、内面化した。その言葉には在日韓国人の複雑な内側がふつふつと沸き立つ。読み込むうちに出自に関わる済州島での事件が実は世界全体の加害や被害にも共通する問題だと気付かされる優れた詩集であった。
山本かずこ「恰も魂あるものの如く」(ミッドナイト・プレス)はその題名が中原中也の詩に由来することから何人かの委員からクレームがついた。既存の作品からの命名はやや詩集にマイナスになったのではないかと。しかしその内実は、くぐってきた時間を丹念にしずかに語る言葉そのものが魂あるもののようであり、どの作品にも特別の事件があるわけではないが、読者は知らぬ間に魔界のような山本の悔恨や断念や狂気の世界に引きずり込まれる。そこには裸の魂が寒風にさらされる姿がある。かつて若き日の山本は大胆な性の描写によって一部の女性詩人たちから批判的に受け止められた。40年以上の歳月は明らかに彼女の詩に変化を与えた。それは時間が肉体を通過するときに生まれる静かな悲鳴のようなものだが、山本は今度の詩集で、生きることの重さを実存的に深めたと言えるだろう。詩篇「母の戦い」「みえないこえは きこえます」「のれんの話」等の作品には描かれた時間の重層性と深みが感じられた。第28回丸山薫賞に推薦する理由である。(文中敬称略)
(選考委員 八木 幹夫 記)
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