平成27年度
第22回
選考 |
平成27年9月4日、豊橋市役所会議室において第22回丸山薫賞の選考が行われ、議論の結果、細田傳造さんの詩集『水たまり』(書肆山田 刊)に決定しました。 |
選考経過 |
選考委員会は2015年9月4日、豊橋市役所で開催された。昨年と同じ菊田守、新藤凉子、高橋順子、八木幹夫、八木忠栄の5名の委員が選考にあたった。候補詩集は高岡修『火口の鳥』、山本楡美子『草に坐る』、長嶋南子『はじめに闇があった』、秋亜綺羅『ひよこの空想力飛行ゲーム』、細田傳造『水たまり』の5冊。司会進行は八木幹夫委員。
はじめに各選考委員それぞれが5冊の候補詩集について、高く評価する点や弱点などについて具体的な意見を率直に出して協議したあとに、各自がそれぞれ高く評価する詩集を2乃至3冊ずつ挙げた。その結果、多い順に細田氏、長嶋氏、秋氏の詩集が残った。その3冊について、3人の詩人たちのこれまでの詩集を含めて個々の作品に即しながら、さらに意見を重ね議論を進めた。
秋氏には、従来の現代詩のスタイルにこだわらず、ゲーム感覚で自在に表現のフィールドをはみ出そうとしている姿勢に今後が期待できるが、このままではまだ未完成。詩が長過ぎるという意見と、前詩集『透明海岸から鳥の島まで』(2012)のほうがすぐれていた、という意見がいくつか出された。
この段階で、選考は長嶋氏と細田氏にしぼられた。
長嶋氏は、ユーモアに欠ける現代詩が多い現状にあって、独自な苦いユーモアで血族・家族の闇を執拗に探索している、いわば現実と夢魔が綯いまぜになったユニークな“家族論”。しかし、同様のテーマで書かれた前詩集『猫笑う』(2009)にくらべて、ボルテージが幾分落ちているという意見があり、若干気になる印象が残ったという意見も一部にあった。
細田氏の『水たまり』が選考委員全員の支持を得た。
氏は在日二世であり、韓国語を日本語詩のなかにいくつかさりげなく、うまく滑りこませている。それが単なる物珍しさではなく、言葉同士のテンションを一層高めている。そこに余分な湿気はなく、さらりとして嫌味を微塵も感じさせない。ユーモラスな感性で裏打ちされている。そのうえ鋭い批評精神もソフトにひそんでいる。たとえば―
アイゴーチラランダ
アガシは鋭く哭いて犬を蹴ったらきゅうに
ソウルの八月の午後どしゃぶりの雨になった
犬がひとり世宗大路(セジョンテロ)をあっぷあっぷして流されてゆく
(「ソウル八月の午後の犬」部分)
あるいは―
父が怒った
マンチャナルの隣りはトンへ海
訛った日本語で怒った
塩の川の向こうはトンチョソン
トンチョソンには日本人(チャップ)の棄てた
発電機がある銅線の宝の山がある (「白い服」部分)
65歳で詩を書きはじめたという細田氏の年輪が、行間で多様にダイナミックに呼吸しているように私には思われる。トゲトゲしさがない。さらに指摘しておきたいのは、詩のなかに頻出する人名がいずれも生きている。シゲちゃん、ター坊、かつとし、キイチ……等々。詩で人名を使うのはむずかしいけれど、細田氏の場合、人名にはしっかり生命が与えられている。まったく違和感がなかったことも話題になった。
この詩集はくり返し読みこむほどに新たな発見があり、その世界は豊饒であり、滋味と奥行きを愉しむことができた。しかも、第一詩集『谷間の百合』(2012/中原中也賞)よりあきらかに屈折が深くなり、コクが増してきている。
選考委員全員一致で細田氏の受賞がすんなり決まり、気持ちのいい選考会を終わることができた。
(文中敬称略)
(選考委員 八木忠栄 記)
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受賞者紹介 |
細田さんは1943年生まれ。埼玉県さいたま市在住。
2008年5月、よみうり文化センター浦和「詩を読んで書く」講座で詩作を始める。
2012年6月、第1詩集『谷間の百合』(書肆山田)で第18回中原中也賞受賞。
2013年4月、第2詩集『ぴーたーらびっと』(書肆山田)を刊行。
2015年1月、第3詩集『水たまり』(書肆山田)を刊行。
詩誌「歴程」同人。
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細田傳造さん
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受賞の感想 |
今、感動に震えています。十年ほど前から現代詩をむさぼるように読み始めました。はじめの頃に丸山薫先生の詩集『帆・ランプ・鷗』のなかの「砲壘」に出会って、「破片は一つに寄り添はうとしてゐた。/龜裂はまた頬笑まうとしてゐた。」の言葉に衝撃をうけ、衝動となって翌年の夏、山形県岩根沢にある丸山薫記念館に行ってきました。
記念館の皆様にはたいへんお世話になりました。空を仰ぐと朝日山系の山並が天上にくっきりと浮かび、水を張った田圃にはおたまじゃくしが、たくさん泳いでいました。
丸山薫賞という、大きな詩人の名を冠した賞を戴くことになりました。選考委員の諸先生方と、事務局の皆様方に厚く御礼を申し上げます。
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贈呈式 |
平成27年10月21日(水曜日)豊橋市内のホテルで行われました。日本現代詩人会会長の以倉紘平さんら約100人が出席されました。 |
第22回丸山薫賞贈呈式
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