第27回の選考委員会は本年9月4日に、豊橋市役所内で開催される予定でした。けれど、新型コロナウイルスのせいで、委員は集合せずFAXかネットによる選考スタイルに変更して、9月2日~4日の3日間にわたって行いました。(作業行程は後述)
選考委員は以倉紘平、新藤凉子、高橋順子、八木幹夫、八木忠栄でした。あらかじめ、選考委員によって選ばれた候補詩集は以下の7冊でした。
加納由将『記憶のしずく』(思潮社)
阿部日奈子『素晴らしい低空飛行』(書肆山田)
くりはらすなを『ちいさな椅子とちいさなテーブルを持つ家』(西田書店)
山田隆昭『伝令』(砂子屋書房)
長田典子『ニューヨーク・ディグ・ダグ』(思潮社)
相沢正一郎『パウル・クレーの〈忘れっぽい天使〉を だいどころの壁にかけた』
(書肆山田)
朝吹亮二『ホロウボディ』(思潮社)
選考は事務局から示された以下のマニュアルに従って、スムーズに進行して決定しました。その都度の作業のとりまとめは、事務局の手を煩わした。
〔9月2日〕第一次選考
各選考委員が7詩集のうちから、先ず各自2詩集を推薦する。
得点は、第1位:3点、第2位:1位(第1位と甲乙つけがたい場合:2点)
→ 上位3詩集を第二次選考の対象に。
〔9月3日〕第二次選考
選考委員は、第一次選考で選ばれた3詩集それぞれについての書評を書いて提出。
〔9月4日〕第二次選考・続/最終選考
全員の書評を読んだ後に、各自2詩集を推薦。
最終選考は、2詩集のうちから1詩集を多数決で決定。
→ 12点:6点で、 相沢正一郎(12点)に授賞決定した。
こういうスタイルで詩の選考をしたのは、私には初めての経験だった。集まることがむずかしい現今ではやむをえない。
選考委員が一堂に会して考え方を侃侃諤諤し、意見をやりとりして、あれこれ協議するのとは違うじれったさ、物足りなさは幾分あったけれど、選考委員は詩集をそれぞれ熱心に読みこんだ。3日間の選考を通じて、議論する相手の意見に必要以上に惑わされることなく、自分の評価をていねいに確認し、むしろ各人の意見が純に生きていたと確信される。
選考委員は終始おのれと向き合い、各詩集と真摯に向き合って結論を出したはずであった。
最終的には、相沢正一郎(3点×3名+2点+1点/全員の支持あり)と長田典子(3点×2名)のあらそいになった。
相沢さんは、画家や作家の作品を素材にして、そこにとどまらない独自の想像的世界を獲得し深く展開する従来からの手法が、ここにきて一段と熟成を見せてきた。しかも、それらにはユーモラスなニュアンスがそれとなくただよい、意表をつきながら、とんでもない時空へ読者をさらってしまう魅力があった。作品に自由自在で創造的飛躍が生まれ加わっている。「へのへのもへじ」という傑作も、そうした成果だと言えるだろう。「さまざまな声の反響」「乾いた、親しみのある文体」とか「書法が透明性を帯びてきた」など、高く評価する声がいちばん多かった。
相沢正一郎さんと最後まであらそったのは長田典子さんだった。
50代半ばになってからニューヨークへ語学留学した異国での2年間の多様な経験を作品化。そこに外国人との交流、父をはじめとする身内との葛藤、日本の311とニューヨークの911を重ねるなど、単なる語学留学にとどまらない、人生経験者の人間関係が多様に追及されている。詩として仕上げる妙な意識が働いていない点も評価された。(文中敬称略)
(選考委員 八木 忠栄 記)
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