令和5年度(第30回)
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令和5年9月1日(金曜日)に第30回丸山薫賞の選考が行われ、桑田今日子(くわたきょうこ)さんの詩集『ヘビと隊長』(詩遊社 刊)に決定しました。
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と受賞理由
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第30回丸山薫賞の選考は本年9月1日(金)、豊橋市役所内で行われました。
選考委員は以倉紘平、高階杞一、高橋順子、中本道代、八木幹夫の5名。
事前に候補詩集として挙げられたのは以下の9冊(並びは書名の50音順)。全員が女性で、これは
本賞創設以来初めてのことではないかと思います。
新井啓子『さざえ尻まで』(思潮社)
草野早苗『祝祭明け』(思潮社)
山本幸子『父を抱く』(編集工房ノア)
唐作桂子『出会う日』(左右社)
山崎るり子『猫まち』(ふらんす堂)
淺山泰美『ノクターンのかなたに』(コールサック社)
竹中優子『冬が終わるとき』(思潮社)
桑田今日子『ヘビと隊長』(詩遊社)
坂多瑩子『物語はおしゃべりより早く、汽車に乗って』(書肆子午線)
まず各委員が順に自分が推す詩集についての推薦理由を述べ、一巡したあと、自由に候補詩集9冊について意見を交わし合った。その結果、竹中優子、桑田今日子、坂多瑩子3氏の詩集が最後まで残り、ここからさらに議論を重ねていった。
竹中優子『冬が終わるとき』は、他者と一緒に生きているという情感が丁寧に緻密に描き出されている。安易に近くなりすぎない距離感の中でどんな関係性も肯定していく眼差しの低さがあり、他者への愛が感じられる。といった推奨する発言があった一方で、詩の流れがブツブツ途切れ、理解しがたい所が多い。実験的な意欲に満ちた詩集なので、本賞より新人賞的な賞の方がこの詩集にはふさわしいのではないかという意見も出た。また、作者は短歌も同時にやっており、歌壇の賞もいくつか受賞しているとのこと。それを踏まえて、この人には詩よりも短歌の方が合っているのではないかという意見も出た。
桑田今日子『ヘビと隊長』は第1詩集。日常を題材にしながら、そこから微妙にはみ出している。そのはみ出し具合が独特なユーモアを生んでいる。どの詩にもほっこりとしたぬくもりがあり、作者の優しさが伝わってくる。そうした推薦理由に賛同する委員も多かった。一方で、詩集全体としては少々軽すぎるのではないかという意見もあった。
坂多瑩子『物語はおしゃべりより早く、汽車に乗って』は、アイロニーとユーモアが絶妙に混ざりあい、さらに行から行への飛躍も絶妙で、それらが合わさって独自の魅力を生んでいる。また、さまざまな〈死〉が詩集全体の通奏低音となっており、それがこの詩集の深みを増している。そうした肯定的な意見の一方で、比喩や修辞に作為の跡が見られるのが残念という否定的な意見もあった。
こうした議論を交わしながらも1冊に絞ることができず、最後は投票で決めることになった。『冬が終わるとき』と『物語はおしゃべりより早く、汽車に乗って』がそれぞれ1票、『ヘビと隊長』が3票という結果になり、桑田今日子詩集『ヘビと隊長』を授賞作とすることに決定した。
最後に収録作品中、心に残った1篇を紹介します。
「叔母さんの家に遊びに行った帰り道/夜のバス停にうずくまる人影があった/お父さんくらい大きい男の人が泣いていた/大人なのに、声を出して泣いていた/「指を差したらだめよ、大人は色々あるんよ。」/って、お母さんはマフラーをもう一巻きし/私の小さな手を引っぱって行った/寒空のオトナの方向へ向かって//その日、私は初めて/眠れない夜を過ごした」(「夜のバス停」全) (文中敬称略)
(選考委員 高階杞一 記)
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受賞者紹介 |
1959年福岡県北九州市生まれ。都留文科大学卒。介護福祉士。富山県富山市在住。2012年、大阪文学学校通信教育部にて、冨上芳秀氏に師事。同氏主宰の詩誌「詩遊」に39号より同人として参加。「ヘビと隊長」は第一詩集。
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桑田今日子さん
受賞作品
『ヘビと隊長』
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受賞の感想 |
この度は、歴史のある丸山薫賞に選んでいただき、大変ありがとうございます。選考委員の先生方と豊橋市の関係者の皆様に厚く御礼を申し上げます。一生に一度の記念のつもりでまとめた初心者マークの詩集でした。受賞のお知らせをいただき、本当にびっくりいたしました。光栄に思うと同時に身が引き締まる思いがしております。日本の偉大な詩人である丸山薫先生に、もっと頑張りなさいと励ましていただいた気がしております。これが終わりでなく、始まりと思って、精進していきたいと思います。
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贈呈式 |
令和5年10月20日(金曜日)豊橋市内のホテルで行われました。
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