「肝臓」は栄養素を蓄え変化させる、消化液である胆汁を作る、有害物質を中和するなど様々な働きを持っており、人が健康に過ごすために大変重要な臓器です。その肝臓に炎症が起こり、肝細胞が破壊される(肝機能障害を起こす)病気が「肝炎」です。肝炎にはアルコール性や薬剤性など様々な原因がありますが、日本人に最も多いのがウイルス性肝炎で、以下の5つが知られています。
ウイルス性肝炎の原因の大部分を占めるB型肝炎やC型肝炎は、慢性化すると自覚症状がないまま肝硬変や肝がんへと病気が進行していきます。
B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスは、早期に感染がわかれば必要な定期検査や適切な治療を受けることで肝硬変や肝がんの発症を抑えることができます。感染しているかどうかは血液検査(肝炎ウイルス検査)で調べることができますので、検査を受けたことがない方は一度受けてみましょう。
感染が明らかになった方は、病態の把握等のため肝疾患専門医療機関を受診しましょう。
県内の肝疾患専門医療機関については「あいち肝炎ネットワーク」で確認できます。
- 肝疾患専門医療機関では病態を把握・治療方針を決定・抗ウイルス療法を実施し、病状が安定している場合は一般医療機関(かかりつけ医)を紹介するなど連携して治療を行います。
- 一般医療機関(かかりつけ医)では日常的な肝炎診療(内服処方、注射等)・経過観察を行い、病状が悪化した場合は肝疾患専門医療機関を紹介するなど連携して治療します。
- 肝疾患診療連携拠点病院では治療困難者等の受け入れともに、肝疾患専門医療機関に対し肝炎治療の最新の知見をもって技術支援等を行います。
B型肝炎・C型肝炎・D型肝炎
感染経路 |
血液や体液(精液・膣分泌液、唾液、汗など)を介して感染する。針刺し事故、母子感染など。C型肝炎は血液以外の体液から感染することはまれ。B型肝炎は性交渉で感染することもある。 |
潜伏期間 |
急性肝炎:B型肝炎;60~150日(平均90日)、C型肝炎;2~14週、D型肝炎;3~7週間(B型肝炎ウイルスとの同時感染が多い)
慢性肝炎:ウイルスの持続感染によって肝炎状態が6か月以上続いている状態を慢性肝炎という。慢性化した後も数年~数十年は症状が出ないことが多い。
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症状 |
急性肝炎:B型肝炎;微熱、食欲不振、全身倦怠感、悪心・嘔吐。黄疸が現れることもある。ほとんどは1か月程度で回復するが、ごくまれに劇症肝炎を発症すると、40℃近い高熱、起き上がれないほどのだるさ、強い吐き気があり、高度な肝不全と意識障害が現れ、昏睡状態に陥る。劇症肝炎の致死率は約70%。C型肝炎;倦怠感、食欲不振、吐き気、黄疸。ほとんどは数か月で回復する。自覚症状が現れないこともある。
慢性肝炎:疲れやすい、食欲不振など。黄疸が出ることもあるが、気づかないまま数年~数十年過ぎることが多く、肝硬変、肝がんに移行する。
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ワクチン |
B型肝炎:あり(3回接種) ※豊橋市では小児に対してB型肝炎ワクチンの接種費用を助成しています。
C型肝炎:なし
D型肝炎:なし(ただし、B型肝炎ワクチンの接種によりD型肝炎の予防が可能)
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予防方法 |
- 他人の血液や体液になるべく触れない。(応急救護などで血液に触れる場合はゴム手袋を着用する)
- 歯ブラシやひげそり、注射器・注射針は共用しない。
- コンドームを使わないなどの無防備な性行為をしない。
- (B型肝炎ウイルスに対して)ワクチンを接種する。
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給付金の支給制度 |
- 昭和23年から昭和63年までの間に行われた集団予防接種によってB型肝炎ウイルスに感染した方へ給付金を支給する制度があります。詳しくは厚生労働省のホームページをご覧ください。
- 出産や手術での大量出血などの際に特定のフィブリノゲン製剤や血液凝固第IX因子製剤を投与されたことによってC型肝炎ウイルスに感染された方へ給付金を支給する制度があります。詳しくは独立行政法人 医薬品医療機器総合機構のホームページをご覧ください。
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A型肝炎・E型肝炎
感染経路 |
糞便に汚染された食べ物や飲み物から感染する。A型肝炎ではカキなどの二枚貝が原因となることがある。E型肝炎はイノシシやシカなどの生肉が原因となることがある。
また、A型肝炎は性行為によって感染することもある。
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潜伏期間 |
15~50日(平均28日) ※通常、慢性化することはない。 |
症状 |
発熱、倦怠感に続き、食欲不振、嘔吐などの消化器症状。頭痛、筋肉痛、腹痛や、皮膚・眼球の白い部分が黄色くなる黄疸、褐色の尿、白っぽい便など。 |
ワクチン |
A型肝炎:あり(3回接種)
E型肝炎:なし
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予防方法 |
- 水は市販されているもの(ミネラルウォーター)か、沸かしたものを飲む。
- 屋台や不衛生な飲食店では生野菜や生魚、氷などを避け、よく加熱された食べ物を選ぶ。(加熱された食品でも、長時間放置されたものや汚れた手で扱われたものはウイルスが付着していることがあるので注意。)
- (A型肝炎ウイルスに対して)海外の流行地域に長期滞在する場合はワクチンを接種する。
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その他の肝炎
他にも急性肝炎を引き起こすウイルスとして、サイトメガロウイルスやEB(エプスタイン・バー)ウイルスなどが知られています。
また、ウイルス性肝炎以外にも、アルコール性肝炎、薬剤性肝障害、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)などの肝機能が低下する病気があります。薬剤性肝障害は医療用の医薬品だけでなく、漢方薬、健康食品、サプリメントなどが原因となることもあるので注意しましょう。
肝臓は「沈黙の臓器」と言われ、病気が進行しても自覚症状が出ないことが多いので、定期的に肝機能検査(AST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GTPなど)を受けて肝臓の機能が低下していないかチェックしましょう。
参考